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●神谷● 高くなった日が窓から差し、ようやく目がさめた。 すっかり煎餅になっちまった万年床の上、頭を掻きながら大きくあくびをする。 ああ、よく寝た。 寝ぼけ半分の判然しない頭のまま洗面所にいき顔を洗う。ついでに髭もそって、髪も手櫛で直す。 今日は仕事に一区切りついたから、久しぶりに店を開けるつもり。 店の棚に並ぶ古書を主とした品々は、そのまま俺の書庫になっている。 古書なんてのに手出す物好きはそういねーから滅多に売れねえけど、そもそもが俺の蔵書なんだし別になんも困らない。 店っつってもその程度のモン。 葉が買い置きしてくれたらしい食パンを生のままかじりながら、着物を取り出す。 電子レンジ、前にぶっ壊したからねえんだよ。 乾いた口内に残った分まで適当に水で胃に流し込んでから、着物に袖を通し髪も後ろでひっつめてまとめる。 あとは書庫兼店先の引き戸をあけ、表に手書きの『開店中』の札をひっさげて、準備完了。 俺は棚の並ぶ書庫の奥にある座敷で、好きなモンを読みながら客を待つだけ。 さて、今日は誰か物好きは来るかね。
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