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◇五月◇ 門の横のチャイムを鳴らす。 いつもは二度三度鳴らしても反応がないから諦めて帰ってたんだけど、今日は違った。 『はい、』 インターフォンから声が返る。 「こんにちはあ、お久しぶりでっす☆ ちょっと相談があるんですけどー、今大丈夫ですかあ?」 直ぐに済みますんで、というと待ってろとの返事と共に無音になるインターフォン。 少しして玄関からフィラフトさんが出てきてくれた。 「中、入るか?」 「あー、ホント直ぐなんで大丈夫ですよお。」 お気遣いなく。 ポケットから随分汚れた紙を取り出す。よれただけだと思ってたけど、開いてみると機械油が染みを作ったりしていてちょっと恥ずかしくなった。 扱いが悪かったんじゃないよ、多分。 「えっとお、ちょっと引越ししようと思って。 前に見せてもらった、このお家にしたいんですけどー、今からでも大丈夫ですか?」 門のところまで来てくれたフィラフトさんに紙を渡すと、思い出したようにああと相づちを打ってくれた。 「わかった。ここでいいんだな?」 「はい、お願いしますー」 とりあえず、連絡手段にと電話番号の書かれた名刺にメアドも書き足して渡す。 なにかあったらこれに連絡下さい、てことで☆ 「じゃあ、店長さんとあんこ君にもよろしくお伝え下さーい」 月並みな定型句で、フィラフトさんちを後にした。 なんだか前に会った時より一層、入り込めないような、入り込んじゃいけないような感じがしたから。
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