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「今日は避難訓練があります。」
担任の鈴木先生の言葉は意図せずとして、その場の空気を一変させる魔法の言葉となった。
普段と変わらないごく日常的な風景に亀裂が入り、不安感を煽る静寂が溢れ出す。
淡々と詳細を語る教師の言葉など耳に入るわけもなく、生徒達の頬を汗が伝った。
どうやらこの日、理科室で火災が起きるらしい。
そう思うと、やけに分厚いコンクリート色の曇り空も、窓から入り込んでくる冷たい風も、不吉なものに思えてくる。
「……先生!」
「ん?どうした、大橋。」
「火災が……火災が起こると言うことが判っていながら、どうして防ぐことができないのでしょうか!?」
「……は?」
「先生は火災の恐ろしさを知らないのですか!?人が……この中の誰かが……死ぬかもしれないんですよ……ッ!?」
「いや、死なんだろ。常考。訓練なんだから。良いからこれでホームルームは終わりだ。」
冷静な言葉と共に、鈴木先生は教室から出て行った。
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