普通の徒競走

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 教師がピストルを上にむける。  「位置について、用意ーー」  ーードン。  俺は心の中でタイミングを計り、緊張感の漂う空気を打ち破るように、弾丸となって走り出した。合図の銃声の余韻を背後に聞き、余計な力を抜くことに意識を集中する。  個人種目、200m走。レースは一組につき五人で行われる。勿論、俺を含む第五組も五人で行われており……まぁ、言ってしまえば、この組み合わせの中で俺の敵に成り得るのは同じクラスの佐藤くらいだ。  流れて行く景色から自分の加速を感じ、更なる高みを目指す。心掛ける。  俺は、風になる。風になって、風を超える。風を超えたら、光になる。  自分に暗示をかけて、スタートしてすぐに俺は最高速度に到達した。  順調。最高のスタートを決めることができた。そして、今日の走りは快調だ。  俺の200mの最高記録は4秒ジャスト。今はそれと同等か、それ以上の走りをしているだろう。  佐藤の最高記録も同じぐらいであるから、スタートを上手く決めた方が勝つのが道理だ。  俺は勝利を確信しつつ、コーナーに向けて速度を落とそうとした。単純計算で、おおよそ秒速50m(実際はもう少し早いだろうが)。つまり、時速にして実に180km。そんなスピードを保ったままの急カーブは些か厳しいからだ。  そこで俺は、寒気に背骨が撫でられるような感覚を覚えた。
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