普通の徒競走

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 ーー結果から言うと、俺は佐藤には勝てたようだ。  何故他人事のように言うかといえば、ゴールの瞬間には周りが見えていなかったから。    ゴールした直後に、俺は仰向けになって倒れ込んだ。佐藤も倒れ込み、“負けたよ”と言う言葉を口にするまで、結果を知らなかったのだ。そして、未だに実感はできていない。  激闘を物語る二人の乱れた呼吸が、互いの検討を称える。ああ、これだから、徒競走はやめられないのだ。と、俺は思う。  無理に駆使した牛乳パワーのせいか、体中の感覚がない。少しでも気を抜けば、意識も一緒に抜けていってしまいそうだ。  しかし、まだ気を失う訳にはいかない。結果のアナウンスをこの耳で聴いて初めて、俺は佐藤との勝負の結果に確信が持てるのだ。  『ーー只今の結果、五位、紅組佐藤君。四位、白組田中君。三位、白組ーー』  「よし……っ!!」  俺はそこまで聴いて、握り締めた拳を空に向けながら叫んだ。  因みに、俺は田中であり、間違い無く、佐藤に勝った。  ようやく感じることのできた勝利の実感に、背骨の辺りが震えているような奇妙な感覚を覚える。  勝った!勝った!!  勝利を噛み締めつつ、ふと横を見ると、佐藤は佐藤でどこか清々しい表情をしていた。  「……今日は完敗だったよ」
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