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一組の敵陣に真帆がさらされた瞬間、僕は自分の身のことを一切顧みなかった。勇者的で、愚直で、軽薄な行いだったと思う。
それはある一つのことを浮き彫りにした。僕は、自分の命を軽くみている。いや、そのことには中学に上がった時から気づいていたし、その理由も明白だ。
母から与えられた烙印。僕は取るに足らない脇役なのだ。
それは母のせいではなく、僕の思い込みから端を発しているのだが、しかしやはり母から与えられたものに違いない。
かといって僕は母を憎んでいるわけではない。むしろ今でも愛しているし、だからこそこのような考えに囚われているのだろう。
物語の先へ進んだ母と、前章に取り残された僕。母が生涯演じ続ける人生という名の映画の中で、僕という存在はもうクランクアップしてしまったのだ。
脇役としての諦観を意識し始めたのは両親の離婚、そして母との別れからだが、恐らくそれは世間の中で輝く母を見続けてきたもっと小さなころから少しずつ僕の中に芽生え始めていたのだろう。
だから飛びぬけた才能に恋い焦がれるようなことも無かった。ただそれを近くで見ていたいという欲求だけは人よりも強かったかもしれない。
だから僕は、真帆に惹かれるのだろうか。
彼女の底知れない可能性の片鱗は、もう何度も目にしている。
去年の冬、東都防衛学園のデータベースに侵入しようとしたハッカーを逆探知してみせてから、今やこの学園のセキュリティシステムは彼女に一任されているのだ。
彼女のセキュリティが突破されたという話は今のところ聞いていない。
彼女が僕とは違いあちら側の、主演をはれる権利を持った人間だから僕は惹かれているのか。
それは、真帆という人間ではなくその才能を見ているだけなのではないか。それは真帆という人間を軽んじた、ひどく失礼なことなのではないか。
繕ったような不機嫌さで弁当を食べる目の前の少女を見つめ、胸に黒い水が流れ込むような、罪悪感と切なさが入り混じった想いがこみ上げた。
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