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「どうしてあそこで飛び出した!」
笠原教官の怒声にクラスメイト達はしんと静まり返った。
僕や真帆の所属する二組と一組との合同実習。屋外実践訓練施設において、二手に分かれての模擬戦闘中のことだった。
一組の放った光弾にさらされた二組のB班は、咄嗟の回避行動をとったが、足をもつれさせた真帆が孤立した。
それを見たC班の僕は、リーダーの待機命令を無視して真帆のいる前線へと飛び出し注意をひきつけ、その隙に真帆を逃がしたまではよかったが、結局敵の一斉掃射の餌食となった。
しかし事態はそれだけでは留まらず、僕が飛び出したせいで居場所を掴まれたC班も壊滅し、そこから形勢はいっきに一組へと傾いてしまったのだ。
命令を無視しての単独行動。隊に属す身として、絶対にしてはいけないことだった。自分一人の失敗で、仲間の命さえ無駄にしてしまう最低の行為だ。
「すみません」
何も言い訳はなかった。自分でも驚いていたのだ。あんなに簡単に、敵の前にこの身をさらけ出してしまった自分に。
それ以上何も言わない僕をじっと見つめていた笠原教官は、深くため息をつくと、苦虫を噛み潰したような表情で「歯を食いしばれ」と言った。
その言葉が脳に届く前に、意識が飛ぶような衝撃が右頬を襲い、殴られたことを認識した瞬間に僕は長い草の生い茂る地面に足を踏ん張ってなんとかこらえた。
口の中の血を唾と一緒に吐いて、真っ直ぐ教官を見つめる。
彼の目の中に、僕の頬を襲う激しい痛みと同等の、いや、質的にはそれ以上の痛みを見て、思わず涙がこぼれそうになったが辛うじてたえた。
「ありがとうございます」
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