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教官の目を見ていると、その言葉は自然と溢れ出した。彼は震える左手を隠すように後ろ手に手を組むと、またため息をついた。
「東都防衛学園校則第一条、何よりもまず、自分の命を大切にする。復唱!」
「何よりもまず、自分の命を大切にする!」
全員が声をぴったりと合わせて即座に復唱した。
それは僕の胸の中で何度も何度もこだまする。
自分の、命を、大切に。
しかしその言葉は、どうしようもなく僕の心と溶けあわない。
僕は脇役だから。
「いいかおまえら! これが訓練だと思っている奴は、本当の戦いでは生き残れない。この訓練用のゴム弾もすべて実弾だと思ってやれ! そうでないと……」
笠原教官の声、いや、まわりの全てがフェードアウトしていく。
そして呪いのように、一つの言葉だけが頭の中で反響する。
「派手なシーンで主人公たちのために華々しく散れるなら、それは本望だ」
「え?」
驚いてお箸からウィンナーが滑り落ちる。顔を上げると、呆れ顔の真帆が頬杖をついて僕の顔を覗き込んでいた。
「想ちゃんが今考えてること。違わないでしょ」
まさしくその通りなので僕は言葉に詰まる。真帆はわざとらしくため息をついて、自分のエビフライを僕の弁当箱によこした。
「お礼は言わないからね」
そう言ったきり、真帆はヘッドフォンをつけて黙々と弁当を咀嚼する。
いつも病的なまでに白く儚いその頬に、今はほんのりと赤みがさしていることに気づいた。
「もしかして、照れてる?」
思わずそう漏らすと、真帆の鳶色の瞳がものすごい攻撃色を帯びたので、僕は何も気づかなかったふりをしてありがたくエビフライをいただいた。
なんだ、聞こえてるのか、という呟きは、胸の中でひっそりと留めた。
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