いかなる運命のもとでも、精いっぱいに

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 年老いた龍――無数の宝物の上にうずくまり、眼を閉じて眠る姿に、威厳は微塵も感じることは出来ない。  かつて私が母に何度と聞かされた、寝物語の一節。そこに登場する、神話に等しき龍の存在。  それが今、現実となって目の前に座(ざ)している。  私はその事に興奮を覚えると同時に、まるで崖から突き落とされたかのような失意に胸を打たれた。 ――なんと言うことか……!  こんな痩せこけた、もはや壮厳さも失われ、かつて天空の覇者とも呼ばれた存在が……まるで、死ぬように眠っている。  私と同様に、後ろに控える仲間の困惑した気配を感じ取れた。  ふと、龍は瞼を重たげに押し開けると、黄金に鈍く輝く眼(まなこ)を覗かせた。数刻の時を過ぎ、やっと我々の存在に気付いたのであろう。  私の困惑した表情を見詰める、龍の双眸。その瞳に映るは、深い思慮。  そこには喜びも、怒りも、悲しみも見当たらない。ただ、どこか憂いを秘めた――深遠なる瞳が存在していた。  硬く張り詰めた沈黙の中、暫し視線を合わし続ける。
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