5#逃げるウサギ

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 ぴーぽー!ぴーぽー!  うーーーーーーー!  ノウサギのイチゴの長い耳に、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。  ノウサギのイチゴの鼻に、オイルの匂いと何かが焦げた臭い匂いが、漂ってきた。  ノウサギのイチゴは目を凝らした。  グシャグシャに潰れた車。  引火した車の消火活動をする消防士達。  泣きわめくドライバーや搭乗者。    そして、空に舞い上がる灰色の夥しい煙。  ・・・・・・  ・・・・・・  ・・・・・・  ・・・・・・  ・・・死んだ・・・  ・・・死んじゃった・・・  ・・・僕を避けようとして・・・  ・・・車同士がぶつかって、運転した人間が死んじゃった・・・  ・・・殺した・・・  ・・・僕が殺した・・・  ・・・僕はあの人間達を殺した・・・  ・・・いや、生きてる者もいるかもしれない・・・  ・・・ただ気絶してるだけかも・・・  ・・・でも死んでたら・・・  ・・・僕は・・・  ・・・僕は・・・  ・・・殺した・・・  ・・・キツネも殺した・・・  ・・・人間も殺した ・・・  ・・・僕は疫病神だ・・・   ・・・僕はウサギの風上にも置けない、ウサギのクズだ・・・  ・・・クズだ・・・  ・・・クズだ・・・    ノウサギのイチゴはふと、目の前を見た。  人間の腕。  人間の脳味噌。  車から放り投げ出された、血塗れの人間の死体・・・。  ノウサギのイチゴは、発狂した。  アスファルトに脚を踏みしめ、脱兎の如くノウサギはその場から逃げ出した。  気まずくなって、地獄絵図にしてしまった高速道路から逃げ出した。  取り返しのつかないことをしてしまった、『自分』から逃げ出した。  追いかけて来たキツネの『怨念』から逃げ出した。  この高速道路で運転していた、ドライバーや搭乗者の『怨念』から逃げ出した。  自身の『業』から逃げ出した。  自身の『運命』から逃げ出した。  自身の『自身』から逃げ出した。  ノウサギのイチゴは、逃げていった。  ノウサギのイチゴは、逃げていった。  必死に逃げていった。  必死に逃げていった。   たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!・・・  ・・・・・・
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