《タバコ》

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「ねぇ先生?」 「んー?」 ぬくぬくと温かいこの空間であたしは、読んでいた雑誌を置いて彼を呼んだ。 「それ、美味しいからやるの?」 あたしはちょんっと近くに置かれた箱を指で弾く。 ━━━━━青いパッケージの四角い箱。 タバコ。大人の人が吸うもの。 「そーいうわけじゃねぇんだけどなぁ‥」 「じゃあどうして?」 口にひとつ、含んだままで先生はがしがしと自分の頭を掻きむしった。 ────男の人って。 大人って何を考えてるのかホント解らない。 先生はまだまだ吸えそうなタバコを小さな灰皿に押し付けると、大きな真っ黒いソファに腰掛けた。 長い足を組み換えて、あたしを振り返って手招きする。 ━━━━━ここ、一応学校の中なんだけどな‥ 「来ないの?」 挑発するかのような笑顔。 いつも、そう。 タバコの煙がキライなあたし。 まるで“大人”と“子供”って壁を作られたような気がして、あたしはわざとタバコの話を口にする。 ─────先生とは、二人でいる時に壁なんて感じたくないから。 あたしは、素直に先生の隣にちょこんと腰掛けた。 「よしよし‥」 「先生、質問に答えて?」 「ダメ、恥ずかしいから」 「何で?」 「まだオマエは知らなくていーの」 頭を撫でてた手に軽くおでこを弾かれた。 本心を見せてくれないこの人を何であたしは好きなんだろう。 「ケチ」 子供扱いされた気がして、あたしは頬を膨らませた。 「タバコはオレの精神安定剤なの、わかる?」 「わかんない」 「お子ちゃま」 「…引っ掻くよ?」 降参、というように先生は手のひらをあたしに見せる。 と、同時にあたしの事を抱き寄せてきた。 「タバコを吸ってないと落ち着かないんですよ」 「!」 その言葉と一緒に聞こえてきたのは、どくんどくんと早くなる鼓動。 でもあたしのじゃない。 「あまのじゃく、だね」 「何とでも言え」 あたしはそのまま先生の背中に腕を回した。 タバコの煙はキライ。 でも‥先生の匂いと共にするタバコの匂いはキライじゃない。 そんな微睡みの夕方。
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