天使のタマゴ

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―ミア、これは普通のタマゴじゃないんだよ。 中に天使が入っているんだ。 だから、大切にあたためて― 『ミアは大きくなったらカイのお嫁さんになる』そう宣言するたびにカイは真っ赤になって、ミアをわざと閉じ込めたり置いてけぼりにしたり意地悪をした。 でもミアはカイが本当はとっても優しいのを知ってたから平気だった。 そう、それにカイは詰めが甘いのだ。 今だってミアは物置の小さな窓からエプロンを林檎の木の枝に引っ掛けて、その小さな体を順調に引っ張り出したところだ。 「ミア!」 裏畑の干し草の山にかくれていたカイはニコニコしているミアを見て飛び上がった。 カイは慌てて自分の口を押さえると怖い顔をして怒った。 「ミア、なんで出てきたんだ。駄目だって言っただろう。」 「だってカイと一緒にいたかったんだもん。」 「しっ。声が大きい。」 カイはいきなりミアを干し草の山に引っ張りこんだ。 「わかったから、小さな声でしゃべって。」 干し草がちくちくしたけど、ミアは満足してうなずいた。だってカイが隣にいるんだもん。 今日は朝から遠くで、ドーン、ドーン、と大きな音がしている。 父ちゃんも母ちゃんも、カイのおじちゃんもおばちゃんも、ゼッペルおばあちゃんもいない。 みんな何処に行ったんだろう。ミアは急にさびしくなった。 「カイ…。」 ミアは隣にいるカイの服の袖をちょっと引いた。 カイは大きく目を見開いて干し草の隙間から外を見ている。 「どうした?」 カイはミアの顔を見ると、にこっと笑ってぎゅっと手を握ってくれた。 「…ミア、アヒル小屋まで走れる?」 「うん。」 二人は手を繋いで走り出した。 その時ミアは初めて空が黒い煙で暗くなっている事に気が付いた。 煙は村のずっと向こうから上がっている。 ドーン、ドーン、という音がさっきより近くなった気がした。 カイはアヒル小屋に着くと、アヒル達を寝床から追い出した。 そのままギャーギャー騒ぐアヒル達を小屋の外に追いたてると、掃除用に外れるようになっている隅の床板を外した。
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