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「ミア、ここに入って。」
「やだよ。アヒルの糞臭くなるもん。」
「いいから!」
カイはすごく怒った顔をしてミアの腕を掴んだ。
「いや!痛い!」
ミアは首を振るとしくしく泣き出した。
「……ごめん。」
カイはミアの腕を離すと、優しくミアの頭を撫でてくれた。
「だって、また、カイはミアを置いて、行っちゃうんで、しょう?」
ヒック、ヒックとしゃくり上げながら、ミアはカイの肩におでこを乗せた。
カイはミアの背中をゆっくりさすった。
「…今度は違うよ。ちゃんと迎えに来るから。」
「本当?」
「うん。ミアのお父さんとお母さんも一緒に。みんなでミアを迎えに来るから。」
―だから、ここで待っててくれる?
「本当に本当だよね。」
ミアは床下からカイを見上げて何度も確かめた。
「本当だよ。」
カイはふふ、と微笑んだ。
「そうだミア。これを持ってて。」
それは白いタマゴだった。
「何これ。ただのアヒルのタマゴじゃん。」
「普通のタマゴじゃないよ。それは天使のタマゴなんだ。」
「え!?そうなの?」
目を輝かせるミアにカイはしーっと指を立てた。
「僕が迎えに来るまで、代わりにあたためていて欲しいんだ。
大声を出しちゃ駄目だよ。タマゴの中の天使がびっくりしちゃうからね。
じっと動かないで、静かにしているんだよ。
ミアにしか頼めない事なんだ。」
「わかった。任せといて。」
ミアはそーっと両手でタマゴを包んだ。
ここは臭いし、カイが床板を戻したら真っ暗になってしまうけど。
ミアは大丈夫なんだから!
「カイ。」
「うん?」
「天使が孵ったら結婚しようね。」
「……うん。」
「またね、カイ。」
「またね、ミア。」
最後に見たカイはお日様みたいにキラキラ笑っていた。
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