1.prince登場

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周囲の人がチラッとこちらを見た。 こらえようとすると余計に咳が止まらなくなった。 「ゴホ…ゴホ」 「ゴホ…ゴホ」 もうこうなると発作だ。 周囲の視線ももはやチラ見というレベルではなく、あからさまな批難とか中には敵意かと思うような凝視もあった。 (どうしよう…マスクは忘れたし…。降りるわけにもいかないし…) 咳込みながら、仕方なくバッグからハンカチを出して口元を押さえた。 咳はほとんど止む間もなく断続的に10分以上続いていた。 私の前に座っている人は寝ていて、その隣の人は何度か私の方をちらちらと見ていたが寝てしまった。 「ちょっとすみません。」 隣のドアあたりに立っていた一人の男性が、混んだ車両の中、人の隙間をぬってこちらの方向に移動してきた。 その人は私の脇まで来て止まると 「これ。」 と言って私の手にのど飴を3粒置いた。 「舐めなよ。」 そう言うとくるりと方向を変え、私から少し離れたところへ移動した。 私はとっさのことでびっくりした。咳込みながら背中に向かって 「あり…ゴホゴホ…がとう…ございます。ゴホゴホゴホ」 というのがやっとだった。
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