一章 契約

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地百合の乗った車が遠くなっていく。 よし、これで自由だ。 俺も下校をし始める。 だが、このまま直接家に帰る気はない。 今日は漫画の新刊の発売日だからだ。 もちろん、下校中の寄り道は校則で禁止されている。 駅とか大きめの本屋に行くなど直ぐにバレてしまうような馬鹿はしない。 裏のまた裏の道に個人で経営している潰れそうな小っちゃい本屋がある。 潰れそうなくせして新刊は発売日に並んでいるし某週刊少年誌も木曜に並んでいる。 かなりの穴場で客がいるところを見たことがないが… そこでなら、仮に知り合いに見られたとしても 金持ちの俺がこんなボロっちい本屋で買い物なんてする筈ない別人か、と勘違いしてくれるだろう。 一応、誰もいない事を確認して本屋に入る。 「お…あったあった。おっちゃんコレ買うから起きろ!!」 レジで寝ているこの店の主を起こす。 「な、なんじゃ!なんじゃヒイロか…スースー」 「二度寝すんなジジィ」 「相変わらず口が悪いのう」 「あ、これも買うわ」 レジ前に置いてあった板チョコを指差す。 「これはわしのおやつじゃ」 「じゃ、タダで良いんだな。ありがと」 「……まぁ良い」 「ほら金だ」 「買ったんなら早く帰れ」 「毎度ありくらい言えよ」 漫画を鞄に入れ、憎まれ口を言いながら店を出た。
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