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「あまり親を舐めるなよ、輝十。おまえとはいつか向き合わなければいけないと思っていた」
「あ? んだよ、急に真顔になりやがって」
「尻と太もも派の俺からすれば、おっぱいなんて乳くさいガキのおしゃぶりにすぎんと言っている」
「朝っぱらから何の話だよ!」
尻と太ももの肉感の良さなんぞ、おっさんにしかわかんねーよ! と輝十は内心思ったが、ここでそれを言ってしまうと厄介なので飲み込んでおいた。これから入学式だというのに、くだらない争いで遅刻するわけにはいかないのである。
あーだこーだ言い続ける父を無視し、
「じゃ、俺行くから」
話をぶった切って家を出た。
電車で揺られ、輝十がやってきたのは櫻都市。栗子学園のある最寄り駅である。
たった十五分で街並みはがらりと変化し、都市という割には田舎街のような雰囲気である。都市の中心部にある山の上から下にかけて側面に住宅や店が建てられており、都会育ちには理解し難い光景となっている。
栗子学園もまた山の頂上付近にあり、櫻都市の中心になっているといっても過言ではない。
「はあぁ、広いな空」
駅に降り立った輝十の第一声である。
駅からでも見える大きな建物が恐らく栗子学園だろうことは、輝十も一目で理解した。
同じ制服をちらほら見かけ、ほっと胸を撫で下ろす。その後を追うようにして輝十は栗子学園を目指した。
「ど、どうなってやがる……はぁはぁ……」
それから十五分経っただろうか。膝に手を置いて肩を揺らす輝十の姿があった。
こんなに階段や坂道を登ったのは人生初である。
場所が場所なだけに、バスを使えばよかったのではないかと今になって思う。しかし平然と登っていく生徒達を見てしまっては、思ったより近いのではないかと思ってもおかしくはない。
おいおい、なんでみんな息切れしてねえんだよ。
自分を追い越して栗子学園の門を潜っていく生徒達は、汗はもちろん顔色一つ変えていない。もしかして体育会系の高校なのか?
と、気配を感じて後ろを振り返ると同じく息切れしている女子生徒を見かけて、輝十はほっとする。
しかも大辞典のようなでかくて重そうな分厚い本を抱えて、真っ黒なフード付のパーカーを着てフードまで被っている。いくらまだ肌寒い季節だからといって、この階段や坂道をその格好で登ってきたのなら息切れするのが当然だ。
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