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「……で、話って?」
第二ボタンどころか、既に制服のすべてのボタンをはぎ取られている座覇輝十は、だるそうに目の前の人物に問いかけた。
「…………」
が、当人は今になって恥ずかしさがこみ上げてきたのか、俯いて黙り込んでしまう。
輝十は小さく溜息をつき、これから起こるであろう出来事への心構えをした。そして目の前で佇んでいる人物を眺めながら、ことさら何でもなさそうに振る舞い“その時”を待った。
廊下や他教室から聞こえる、数少ない生徒達の別れを告げる声や学校生活を懐かしむ声。
卒業式――義務教育を終えた日。
既にほとんどが解散し、今教室に残っているのは輝十含め二人だけだった。
「急に呼び出して……ごめん」
やっと口を開いたクラスメイト、いや元クラスメイトが申し訳なさそうに言うと、
「いや、まあ、別に……で、話って?」
輝十は検討がついている本題をさっさと切り出して欲しかった。そして早く終わらせたかったのである。
そもそも卒業式、誰もいない教室、そこに二人っきり……で、気付かない方がおかしい。
そんな少女漫画のような状況で胸が躍らない男なんていないはずだ。いるとしたら、日頃からモテ慣れている輩である。
しかし輝十は違う。胸が躍らない、ある特殊な理由を抱えていた。
「ざ、座覇くんのことが……座覇くんのことがっ、好きなんだ!」
腹の底から沸き上がる魂の叫びを、今こそ解き放たんとする。誰が聞いてもそれは冗談ではなく、本気の告白だった。
輝十は、やっぱりか、という表情で頭を掻き、
「悪いけど俺はあんたと付き合えないし、好きになることも一生ないんで」
断るというより、説得するような、少しの期待も与えない言い方をする。
「だよね……覚悟はしてたよ。でも、でもっ!」
元クラスメイトは、真っ直ぐに輝十の瞳を見て言う。
自分は座覇輝十が好きだ、と。抑えきれない想いを、一生に一度かもしれないこの瞬間に込めて。
輝十はめんどくさそうに明後日の方向を向く。
こういう状況には慣れていた。彼女いない歴生きてきた年数にも関わらず、慣れていた。
輝十は決して美少年ではないし、イケメンでもない。女の子が黄色い声をあげる要因は見当たらない部類に入る。
しかしあるカテゴリーの人種にはモテるのだった。
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