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「友達からでもいいんだ! だめかな?」
「だめです」
即答されたことがよほど悔しくて、悲しかったのだろう。
「なんで……なんでなんだ……!」
懇願するように言う元クラスメイトに、輝十は現実を突きつけた。
「いやだって、あんた男だろ……」
そう、目の前で愛をしつこく語りかけてくる元クラスメイトは歴とした男なのである。ついている方です。
「心配いらないよ! 性別の壁なんて乗り越えてみせる! そうさ、僕達だったらそんなこと容易いはずだよ!」
かつて柔道部の主将を務めていた彼は、自慢の太い腕に力こぶを作って見せる。
「いやいやいやいや! 乗り越えてどうすんだよ! 男同士で何をどうするっつーんだ!」
輝十は主将が目の前でポーズを極めている間に、教室を抜けだそうとして入口に向かうが、
「!」
右手首をごつごつした大きな手によって掴み取られてしまう。
「大丈夫だよ。僕がリードするからね。怖くなんて、ぜーんぜんないんだから」
でかい図体で裏声のような高い声を出し、冗談めいた言い方をしているが、右手首を握る手にはしっかりと力がこもっている。
ガチじゃねえかよ!
こういう状況に慣れているとはいえ、輝十は全力でひいていた。
「俺、おっぱい以外に興味ないんで」
こういう輩は下手に挑発してはいけない。輝十は努めて穏やかに断る。
「最初は痛いかもしれないけど、慣れるまでの辛抱だからね」
「人の話を聞けえええええ!」
主将は掴んでいた右手を引っ張り、その勢いで輝十を壁に押しつけて逃げ場をなくす。
「おっぱいならあるよ、ほら」
「それはおっぱいじゃなくて胸筋っつーんだよ!」
筋肉質な胸を見せつける主将。
そして輝十のふとももにごつごつした手が忍び寄る。
「ひいっ……」
輝十はあまりの拒否反応に悲鳴をあげそうになった。
卒業式だからって穏やかにいくつもりだったが、さすがの俺も限界……!
相手は柔道部の元主将だ。身長も体格も同い年とは思えないほどの差があるし、力では敵うわけがない。
しかし輝十は交わすだけなら絶対の自信があった。
主将の顔が近づき、死も一緒に近づいてくる、その一瞬の隙を――
「輝十、いい加減帰ろうぜー」
「どんだけ待たせるつもりだよー」
つこうとした時、教室が開かれて二人の男子生徒が覗き込んだ。輝十の友人、赤井と青井である。
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