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「そこに座りなさい、輝十」
「は?」
家に帰ると卒業式から先に帰宅していた父が玄関で何故か正座していた。
「つーか、なにやってんだよ。んなとこで」
「いいから、座りなさい」
「……おい。今度はなにしやがった?」
輝十は知っている。自分の父がこんな真摯な顔つきをするような人間ではないこと、こういう時は何か裏があるに違いないということを。
「まさかまた店の金を女に使ったとか言わねえだろうな」
「それとこれは別だろう」
「図星じゃねえかよ! てめえ!」
輝十は父の胸倉を掴んで上下に揺するが、父は余裕の薄ら笑いを浮かべるだけで悪いという認識はゼロのようである。
「あれほど店の金には手をつけるなと! 潰すつもりか!」
「かつて母は言っていた。男はいくつになっても女を追う生き物なのよ、と」
「もしかして母さんがいないのって、死んだんじゃなくて逃げられたんじゃねえだろうなおい!」
父は輝十の手を払いのけ、わざとらしく咳払いする。
「いいから、とりあえず座りなさいって」
輝十は父を睨み付けながら仕方なくその場で胡座をかいた。
西洋菓子店を営んでいる父からは、相変わらず甘い匂いが漂っていた。甘い匂いのするおっさんなんて気持ち悪いだけである。輝十は幸い母親似だ。
「改めて。卒業おめでとう、輝十」
「あ? ああ、どうも」
「これから高校生になるおまえに話がある」
「女子高生紹介しろとか言ったら小麦粉詰めにするぞ」
「もちろんそれもあるが……それより先に話すことがあるんだよ」
不機嫌さを隠さない輝十は、胡座をかいた上に頬杖をついて完全に上の空だった。
こんなクソ親父の話なんぞ、まともに聞く方が損するに決まってる!
そんな無駄なことに時間を費やす必要ははない、と考えた輝十はとりあえずおっぱいについて考えることにする。
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