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「だってぇーどうしようもなくなーい? 助けたお礼におまえをやるって約束しちゃったんだしぃー」
「それが本音かてめえええええ!」
揺さぶられすぎて目が回ったらしい父が玄関でぐったり倒れ込む。輝十は息を切らしながら親の敵を見るような目で親を上から睨み付けていた。
「まあとりあえず会ってみろって。同じ栗子学園に入学することになってるから」
「……おい、それってもしかして」
父は玄関の床に這いつくばったまま、輝十から目を逸らしてわざとらしく口笛を吹く。
輝十は無言で父の腰を踏む準備に取りかかる。
「待って! 待つんだ! 腰は辞めるんだ! 俺のヘルニアが暴れ出す!」
父は亀がひっくり返るかのように仰向けになって、手を振りながら輝十に待ったをかける。
「とりあえず会うだけ会って見ろって! 妬類杏那っていうんだが、凄い美人なんだぞ?」
「へえ。で?」
「待って! 待つんだ! 腹は辞めるんだ! 俺の胃腸炎が暴れ出す!」
すぐ上まで落ちてきた輝十の足に抱きついて、父は必死に訴えかける。
「もしかしたらおまえ好みに成長してるかもしれないだろ? 後は自分の目で確かめればいい。おっぱいとかおっぱいとか、おっぱいを」
輝十は足を退けて、深い溜息をついて諦めた。
「親父が勝手に決めたんだ。俺は認めねえからな! 以上」
言って、輝十は部屋に向かう。
父はあたたた、と腰をさすりながら起き上がり、後ろ姿からでも苛立ちが感じ取れる輝十を見て苦笑いを浮かべた。
「運命、か。そうさせているのは俺か、それとも……」
輝十はいらいらしながら自分の部屋に戻り、必要以上に大きな音をたててドアを閉めた。
そして雪崩れ込むようにベットに寝転ぶ。
「なんだよ、婚約者って。何勝手に決めてんだよ、ふざけんじゃねえええええ!」
怒りをぶつける相手がおらず、枕を抱きしめて寝返りを打つ。
この家には父と輝十しかない。母は他界し、姉は放浪癖があってほとんど家にはいなかった。実質二人暮らしである。
特にやりたいことも、夢もない、だからといって特に捜す気もない。
輝十は今時といえば、今時の学生だった。だからこそ進学先を決める時も学費を払ってくれるのは親だということもあって、父と担任に相談した結果、これから通うことになる栗子学園に決めたのである。
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