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「ぬう……」
輝十は唸り、抱きつき慣れた枕をしっかり抱きしめたまま寝返りを打つ。
いい加減起きなければいけない、とわかっていても体がまだ寝ていたいと言っている。そんな誰もが毎朝行うような葛藤を繰り返し、渋々瞳を開く。
「…………」
そして視界に何かが入り込み、一気に目が覚めてしまった。
あの強力な睡魔さえも吹き飛ばしてしまう、それは言うまでもなく、
「おい! だからなんでてめえは俺の部屋で寝てんだよ!」
淫魔こと妬類杏那なのでした。
人間の三大欲求である睡眠欲を司る睡魔さえも、この性欲を司る淫魔の前では赤子同然である。
輝十は布団をマントのように勢いよく翻し、ベットから降りて寝袋で熟睡している杏那を足でサッカーボールのようにころころ転がす。
しかし蹴っても起きないことは前回実証済みである。
「なんっで俺の部屋で寝るんだって言って! ん! だよ!」
ズズズゥ、と勢いよく寝袋のチャックを全開に下ろす。
「な、んなっ……」
するとまるでサナギが脱皮したかのように、中から見た目だけは蝶のように綺麗なものが現れる。
恐らくお腹いっぱいのまま寝てしまったのだろう。杏那は女型の姿で、男性用の長袖を一枚羽織っただけの装いだった。無防備に熟睡しているその姿は人間の女の子そのものである。
布を一枚見つけているだけの状態なので、女の子特有の丸みをおびた体つきが明確で、特に胸に関しては重要な部分がはっきりと突起している。
一瞬その魅惑なモノに目を奪われた輝十だったが、すぐに冷静さを取り戻した。
そう、彼は男なのだ。もっとも俺が忌み嫌う、俺を苦しめてきた存在、男なのだ。
輝十はぐっと拳を握り締め、瞳を閉じる。
体内に秘められた煩悩という名の魔力が、朝の力を借りて一点に集中し、今暴れだそうとしている……! 否! ここでそれを許してしまっては、男のおっぱいに反応している、言わばホモと腐女子歓喜の存在に成り下がってしまうのだ。いかん、それは断じていかん!
「例え、いいおっぱいをしていても……!」
「そんなに触りたいなら触ってもいいのにー」
「!」
煩悩組織との首脳会議中に、突然声をかけられてびくっと反応する輝十。
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