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「ピルプは理性ってのがあるから大変だねぇ」
言いながらむくっと上半身を起こす。それだけで大きな実が二つ揺れ動くので憎い。サイズ的では埜亞や聖花に劣るが、弾力で言うとこいつの方が上かもしれない。言うなれば、鍛えられたハリのある上向きのバスト。
そこまで考え、男のおっぱいについて真剣に考えてしまったことを輝十は自己嫌悪した。
「俺としたことがあああああ!」
「ちょっとー朝っぱらかさ叫ばないでくれる? うるさいんだけど」
そんな低血圧な淫乱悪魔に輝十は、改めて冒頭の台詞を言うことにする。
「いやいや、そもそもおまえがここで寝るのが悪いんだろーがよ」
「なんで?」
「なんで? じゃねえええええ! ここは俺の部屋だろーが。てめえの部屋は向かい側のはずだろ」
杏那は答えず、寝袋から抜け出し、四つん這いになって輝十の足下に近づいていく。
「な、なんだよ」
「今……」
そして無言で下から上目遣いで見つめ続けた。
動揺が自分を包み込んでいることに気付き、輝十は慌てて冷静を呼び戻す。
男だとわかっていても埜亞や聖花にはない、異様な魅力を放っているのが杏那の特徴である。けだるそうに、しかししっかりとした、確立された大人の色気が備わっている。
それは大人の女性に弄ばれる年下童貞のような関係性。小悪魔ではない、それは完全な悪魔の魅力だ。
だからこそ聖花や埜亞の時には訪れない、動揺が輝十を襲うのである。
「えろい目で俺のこと見てたでしょー」
「見てねえよ!」
「ふーん、あっそ。つまんないの」
からかうことに飽きたのか、杏那は体勢を戻して背伸びする。
女の姿で毎朝寝られたら厄介だな。さすがに間違いを起こすことはないと自分を信じてやりたいとこだが……はっ、もしかしてこうやってノンケは堕ちていくのか? 付き合った女がたまたまニューハーフだった、仕方ない、みたいなノリか? ない、それは絶対にない。
「なにそんな険しい顔してんの?」
「あ、いや……」
輝十は頭を振って、脳内を占めるその問題を一旦取り払った。
「そういや、さ」
そして何かを思い出し、杏那に声をかける。
輝十から改まって話しかけてくる、など滅多にないことだ。その声色からもさっきのような攻撃的要素は見受けられず、杏那は小首を傾げる。
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