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きっと自分は知らないことだらけなのだ。彼らのことも、学校のことも、自分がどういう立場に置かれているのかも。
貞操を狙われたことをきっかけに、輝十の中で少しずつ関心が沸いてきていた。
櫻都市に到着すると、見ての通り地獄のような坂道が待っていた。これを生徒達が地獄坂と呼んでいることを知ったのは、ついさっきのこと。
もはや名物となりつつある、通学路の最後の難関である坂道の前で輝十は足を止めていた。
前回のような無意味な争いはもうしない、と心に決めている。
なによりあの散らかったものを片付けるとなれば、早々追いついてはこないだ……、
「今日はバスで行くの? 輝十」
と、思っていたら背後から聞き覚えのある声がし、振り返りたくない気持ちを押し殺して、ゆっくりと振り返る。
「おまえぇ……」
「あ、片付けなら終わったよん。輝十」
これが今の時代、悪魔が執事を行っているという所以か。人間とは思えない早業で片付けも準備も行い、尚かつこの場にやってきている。いつもこいつどうやって通学してんだよ。
しかし男性型に戻っているところを見るに、カロリーを消費しているということになる。片付けをしたのは本当だろう。
「そ、そうか。片付けが終わってるなら別に文句はねえ」
「うん、つまり一緒に通学しても問題ないよねぇ。輝十」
「てめえさっきから俺の名前呼びたいだけだろ!」
そんな定番となりつつある二人のやりとりに気付いた彼女は、自分なんかが話しかけていいものか悩み、ただそれを遠くから見つめていた。
仲良くしようと初めて言ってくれた彼――座覇輝十。
しかし仲良くするということは、具体的にどういうことなのか彼女にはわからなかった。
たった一言「おはよう」と声をかけることを躊躇ってしまうほどに。
遠目で見ていた彼女に輝十が気付き、手を振りながら声をかける。
「よう、おはよう」
埜亞は後ろを振り返り、左右を確認し、その相手が自分なのかを確認する。
「そんなにきょろきょろしなくても黒子ちゃんのことだよ。おはよー」
杏那の言葉に安堵し、埜亞は小走りで駆け寄って、深々と頭を下げる。
「お、おっ、おはよう、ございますっ!」
すると頭を下げすぎて、また頭部が地面についてしまい、
「ほんっと体柔らかいよな、埜亞ちゃん……」
輝十が関心と驚愕が混じった微妙な表情で突っ込む。
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