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そこに婚約者がいる……だと? どう考えても仕組んでたんじゃねえかよ!
そうとしか思えず、輝十は遺憾に思う。そもそもそういう父親なので、進路相談なんてした時点で間違っていたのかもしれない。
「妬類杏那……か」
もちろん全く興味がないわけではない。婚約者として認めたわけじゃないし、すぐすぐ付き合うつもりにもなれない。
「美人かそうじゃないかなんて大した問題じゃねえ」
それでも輝十は思う。
「重要なのはおっぱいだろ、俺的に考えて」
少し早めに起きた輝十は、携帯を手にとりメールを開く。
「朝っぱらから暇だな、あいつら」
と、口では言いながらも自然と顔が綻び、緊張が幾分解れる。
そこには赤井と青井からいつもの調子で似たような内容のメールが届いていた。だから彼氏はいらねえよ!
赤井と青井は今日が入学式で、輝十も今日が入学式なのである。
輝十は携帯を閉じ、真新しい制服を見た。そしてそのまま制服を目の前で広げてひらひら揺らす。
中学が学ランだった輝十にとってブレザーは凄く新鮮だった。
白いブレザーの中は薄い灰色のカッターシャツで、襟に赤い五芒星の刺繍がある。そしてネクタイは黒で普通のネクタイより少し細めで長め。ネクタイにチェーンのようなものがついていたが、鬱陶しそうなので取り外しにかかる。
一見制服というよりは私服に近く、パンクやロックやゴシックという言葉が思い浮かびそうな制服だった。
制服に着替え終わり、居間に向かうと今起きたばかりの顔をした父が寝ぼけまなこで徘徊している。
「なにしてんだよ、親父」
「ん? ああ、輝十か。おお、似合ってるじゃないか」
「目ぇ瞑って言うな、目ぇ瞑って!」
まあまあ、と目を擦りながら輝十の肩を叩く父。
「ちゃんと後で行くからな、入学式」
「はっ、別に来て欲しくもねえけどな」
輝十はそのまま玄関に向かい、真新しいローファーを履いて爪先をとんとん。
「なんだ、まだ昨日のこと怒ってるのか?」
「べっつにー」
嫌味っぽく言う輝十を父は急に笑みを消して真っ直ぐに見つめる。
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