第1話 オレとアイツ

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第1話 オレとアイツ

 オレとアイツが出会ったのは、幼稚園に入園する少し前の事だった。  1999年3月─── 「まあ、和也君もあの幼稚園に?  うちの豪(たけし)と一緒だわ」  母親とスーパーに行った帰り道、立ち寄った『山本酒店』という酒屋で、店のおばさんがそう言った。  アイツはその酒屋の息子だった。 「そうなんですか?  山本さんのお子さんも今年から幼稚園なんですね」  母親同士が話しているところへ、アイツが店の奥から顔を出してくる。 「かあちゃん、おなか空いた」  アイスキャンディーを片手にそう言ってきたアイツを、おばさんが注意する。 「こら、お客さんの前で。  ………すみません仲川さん、これがうちの息子なんです。  ほら、豪、ご挨拶は?」  "ヘ" の字に曲がった口元を閉じて、無愛想な表情でオレをじっと見つめてくる豪。  睨まれているような気がして、オレも睨み返した。 「和也もご挨拶しなさい」  母親に諭されて、オレは仕方なく言った。 「《仲川和(なかがわかずや)》です………」 「………《山本豪(やまもとたけし)》」 「です、は?」と、おばさん。 「………です」  オレの母親はクスクスと笑い、豪の母親も苦笑する。 「和也君、うちの豪と仲良くしてあげてね」 「良かったわね、和也。  さっそくお友達が出来て」  繋いでいた手を揺らし、母さんは言う。  豪はアイスキャンディーをなめながら、無愛想な表情でまだこちらを見つめている。  そしてそのまま店の奥へ引っ込んで行った。  店の奥は豪の住まいであるようで、暖簾の隙間から卓袱台やテレビが置かれた和室の様子が見える。 「こらっ、豪!  もー………まったく愛想のない………。  すみませんね仲川さん」  すると、バタバタと足音が聞こえてきたかと思いきや、再び豪が顔を出してくる。  居間のたたきから裸足のまま飛び降りてきて、オレの前までやってきた。  おばさんは「こら! 裸足で!」とまた怒っている。 「これ、やる」  差し出して来たのは、豪が持っているものと同じアイスキャンディーだった。  オレはおずおずとそれを受け取った。 「ありがとう………」  豪は口の両端をきゅっと上にあげてニンマリ笑う。  つられてオレも笑顔になる。  それがアイツ、豪との出会いだった。  オレとアイツが通う事になった幼稚園は『なかよし幼稚園』と言って、組の名前にはすべて動物の名前がついていた。  ライオンさん組、クマさん組、ゾウさん組、キリンさん組、ウサギさん組………。  なぜ "さん" 付けで敬称しているのかはわからないが、オレ的にはイメージ的にカッコいい『ライオンさん組』が良かった。
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