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住民を未だ一人も見ていない、この物悲しい集落の奥まった場所に、その家はある。
取り壊されて無くなっていればいいと願った――と同時に、植え込みの暗い緑の隙間から、微かに茶けた漆喰壁と灰色の屋根瓦が見えて、僕は何とも言えない気持ちになる。
……彼女は、居るだろうか。
車を道端に寄せて停め、石を積んで造られた塀に沿って鋪装された緩い坂道を上って行く間、僕は顔を上げることが出来ず、自分が歩を進めるために踏み出す足の、一歩先を見つめながら歩いていた。
長くて、短い距離。
赦しを乞うために歩く力無い僕の足は、家の前で砂利を踏みしめて嫌に大きな音を立てた。
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