三日月は太陽の夢を見る

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CSが砕け、≪結界≫がばらばらと解けていく。 相手はぺこりと頭を下げると、まるで逃げるように早足で闘技場から出ていってしまった。 「……別に取って食べたりなんてしないんだけど」 『透輝くんの顔が怖かったんじゃないかな?』 「そんな怖い顔してないと思うんだけどな」 『いつもやる気無さそうな顔しかしてませんのにね』 「まったくだ」 懐のSSからの声に答えながら、透輝は休憩を取るために一度ラウンジに戻る事にした。 ラウンジの奥に、ごく簡素な仮眠スペースがある。城自体が巨大な一つの都市(まち)であるここの、自室に戻らずに少しだけ睡眠を取りたいというアナザーに使用されるスペースで、大抵八割は埋まっている。 コンパートメントの一つに入り扉をゆっくり閉めた透輝は、あまり高級とは言えない、スプリングが少し弛んだベッドに腰を下ろした。思いきり伸びをして、そのポーズのままベッドに横になる。 スプリングがギシリと少し嫌な音をたてたが、ベッドは透輝の体重をきちんと受け止めた。 天井をぼんやりと見上げる。 仮眠を取る態勢になったは良いが、眠気が訪れない。 戦闘直後で気持ちがまだ昂っているのだろうが、このまま連戦するのは危険だ。テンションが上がり過ぎると動きも単調になり、隙も大きくなる。 幾度か痛い目を見ている透輝は、クールダウンの重要性をよく知っていた。 「………アレス、」 『どうしたんですか』 「……僕は、なんなんだろうな」 『透輝さんは、面倒臭がりでもやしで変態です』 「そこまで言っちゃう?」 きっぱりしたアレスの声に、透輝は瞼を下ろしてくすくすと笑う。 アレスは、『それに、透輝さんは私たちの主です。それだけです』と続けた。 「……そっか。ありがとうアレス。後でハグの嵐ね」 『いりません』 透輝の声がだんだん不明瞭になる。 やがてゆっくりと、透輝は意識を手放した。
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