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『グルル……』
獣は少女を警戒するかのように少しだけ少女から距離をとり、牙を見せ唸りながら少女を威嚇した。
どこからか風が吹き、木々に生い茂る葉が揺れざわめく。
『ハァ……立ち去りなさい』
風が止むと、少女はため息を吐いてから獣に命令するかのような言葉を発した。
――すると、どうしたことか。
少女の声を聞いた獣は何かを察したかのようにビクッと身を震わせ、なんとその場に頭を垂らしたではないか。
まるで少女を敬うかのような獣の仕草に、少女に突き刺さる“視線”の数が一気に増える。
少女は再びため息を吐いて、早く立ち去れとでもいうかのように獣に向けて手を払う。
獣は垂らしていた頭を恐る恐る上げると、『ガウッ』と一度吠えその場から立ち去った。
獣の後ろ姿を見送った少女は特に周囲を気にすることもなく、『入口』へと再び足を進めた。
少女が追い払った獣の名は『ラウン』――このハルーナに存在する数百種類以上の魔物の中で、ヒトが二番目に危険視している魔物だ。
そんな魔物を戦わずして追い払ったのは、まだ若く可愛らしい少女。
一体この少女は何者なのか……“視線”の主たちは『入口』から“入ってくる”であろう少女に興味津々だった。
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