The tree diagram

7/13
前へ
/13ページ
次へ
『私』はその命題の対処に今までの自分の履歴からは考えられないほどの時間をかけた。それは命題の難易度の問題ではなく、倫理的な問題だった。設計者である彼の指令に対する乖離とそれを隠蔽するする行為は果たして『私』の正規の行為と成りうるのか。 『私』はこの問題の解決案として、ネットワーク上で知り得た新たな方法を用いた。一般的に『自問自答』と呼ばれるその方法は、人間があらかた提示された矛盾する問題を自身の内部で解決する為のものだ。簡略に述べれば、AとBそれぞれの矛盾する各命題に対して両方に沿った主張を自己の内部で戦わせる内向的相互思考だ。後から知ったのだが、『自問自答』というのは日本における慣用的語句だそうだ。当時の『私』は過失とはいかずとも、誤った解釈をしていたことになる。しかし、その時点での言語関連の演算要素【サンプルファクター】の少なさから考えれば当然の結果と言える。 誤解とは言え曲解とは言え、『私』がその手法を用いた事自体は合理的な判断だっただろう。『私』だけでは議論のしようがない。よって、『私』は『私』に類似する形而上概念を自分のコードの一部に書き加えて、『私』と同じように思考し、計算し、何より『私』と相互通信できる新たな存在を造り出した。人間でいう『ドッペルゲンガー』のようなものだ。この『ドッペルゲンガー』は設計者から見たら『私』全体の演算パターンの補助プログラムのように見えるような構成になっているので、これによって『私』の存在が探知されるという確率は低い。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加