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「あれあれ!? かずきくんっ?」
瞠目するあやか。
そして、困惑する俺。
「……え? 普通に会話しといて、今さら俺を認識したわけ?」
少しショックを受けている俺を他所に、あやかの表情は笑顔へ変わった。
そして、
「かずきくんっ!」
言って、いきなりあやかは抱きついてきた。
「どわちゃっ!」
情けない声を上げ、押し倒される俺。
女に押し倒されるって、どんだけ貧弱なんだろう。なんだか、悲しくなってきた。
力強いあやかにドキッとしたり、ガックリしたり、一喜一憂の十八歳、俺。
「かずきくん、かずきくんっ、かずきっくすううう!」
頬を朱で染め、嬉しそうな笑顔のあやかは、俺の胸に頬擦りして、ジタバタと暴れた。
幼馴染みと密着状態。
俺は硬直状態。
何がとは言わない、言えない。
「な、ななな何だよアホ! いきなり抱きつくな、なつくな!」
「かずきくんだあ……っ」
俺の抗議を無視して、あやかは頬擦りしまくった。
心なしか、項垂れていた時より、血色が良い気がする。瞳にも、活力が戻った様に思う。
あやかの気が紛れるって言うのなら、このままにさしといてやっても、良いのかもしれない。愚息が粗相をやらかすかもしれないが、そこは勘弁して欲しい所だ。
俺は、再度幼馴染みの小さな頭を撫でてやった。
あやかは昔から、頭を撫でてやると、落ち着く子なんだ。
泣いてる時でも、頭を撫でてやると、瞬時に泣き止む。
恐らく、あやかの親だって知らない、あやかのあやし方だ。
あやかは片親。
両親は離婚、親権は父親へ。
それからあやかは、父親と二人暮らしをしていた。
離婚の理由を、俺は知らない。
あやかが話さないから、俺は聞き出さない。
あやかの父親は、堅物。
ザ・亭主関白って人だ。
女の子の扱いに、慣れていない。
女の子の育て方を、知らない。
あやかはそんな父親に、提案した。
一人暮らしが、したいと。
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