幼馴染み

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「……?」 しかし、あやかからの攻撃はない。 あやかを窺うと、息を切らして、俯いていた。 足を後方に投げ出し、上半身を起こして、両手を床に付いている。 見方によっては、両足を引き摺りながら、這っている様にも見えた。 ……あやか? 俺は即座にあやかの元へ跳んだ。 震えるあやかを抱き抱え、頭を撫でながら、囁く。 「あやか。大丈夫だよ。俺はここにいる、どこにもいかない。離れないから」 あやかは、縋るように俺の袖をぎゅっと握った。 「かずきくん……、足が、足が動かなくなっちゃったの……」 声を震わせながら、あやかが言う。 俺は、あやかを注意深く観察した。 外傷は、ない。足にも、あやかの体にも外傷は、一切見受けられない。認められない。 外傷がないにも関わらず、動けないらしい。 「……そうか」 俺は、あやかを抱き締めてやった。 労りは、しない。 力いっぱい抱き締めてやった。 惜しみ無い愛が、優しさとして伝わったのか、あやかは安心したらしく、震えは止まっていた。 俺の胸に、顔を埋めたあやかは、酷く脆い存在に思えた。 「……かずきくん」 「ん?」 「……いいよ」 言ってあやかは、面を上げた。その瞼は下ろされている。 これは、フラグが立ったと解釈して良いのだろうか? 読者が心待ちにしていた官能モード突入か? 「キス、していいよ」 「……はい?」 呆気にとられ、マヌケな返事。 「会いたかったでしょ? 会えて安心したでしょ? 遠慮無く、気兼ね無く、キスしていいよ」 あやかは唇を尖らせた。 仄かに染められた頬が、妙に艶やかだ。
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