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「夜分遅くに申し訳ありません。唐突なことでご迷惑かと思いますが、千早さんに責任を取って頂くため、しばらくの間この家に御厄介になることをお許し頂けるでしょうか? 不束者では御座いますが、宜しくお願い致します」
時が止まる。煮立つ鍋。喧嘩する猫の鳴き声。ポロリと持っていた箸を取り落とす父。
「千早という名前は手が早いという意味でつけたんじゃねぇぞ! この……エロストリームが!!」
直後、元自衛隊の筋肉ムキムキ親父のコークスクリューが俺の顔面に向かって放たれた。それを後ろにいなしてダメージを殺そうとしたが、その拳は俺の顔に届くことはなかった。
「千早さんに乱暴はやめて下さい」
片手であの親父の拳を受け止めていた少女が言った。
「……ちっ、良い娘っ子じゃねぇか。千早もいい趣味してらぁな。だがな、譲ちゃん……これは男と男の闘いだ、手出し無用だ……いくぞ! 千早ぁ!」
少女を振り切り、親父が再度殴り掛かってくる。
「しかし……」
少女が親父を止めようと前に出ようとするが、それを遮って母が少女の手を取った。
「大丈夫よ。あの二人はいつもああなんだから」
「はぁ……」
親父の拳をきっちりと見切り、後ろに飛び退く。
「いきなり何しやがる! くそ親父!」
「お前は婦女子をこましてきただけでなく、親にまでそんな口を聞くか!」
俺と父の本当のエクストリームな闘いが始まろうとしていた時、母は少女に向かって黄色い声を上げていた。
「まぁまぁまぁ、しかしあなた可愛いわね~。外国の方のハーフかクォーターかしら? 今時その歳でそんな挨拶できる娘なかなかいないわよ~。うちで良ければいつまでだって居ていいのよ? あぁ、孫の名前は何にしようかしら」
相変わらず無表情の少女の手を取り、ぶんぶんと上下に振りまくっている母は非常に楽しそうだった。
「失礼ですけど……母君は随分若く見えるのですが、お幾つですか?」
「あら~、嬉しいこと言ってくれるわね~。ま、実際若いけどねー。千早は今十七だけど……私はまだ三十代前半よ」
「はぁ……」
遠目に聞こえる二人の会話を耳にし、そういえばと俺は気付く。
「親父も人のこと言えねーだろうがこらぁ! それに俺は何もしてないぞ」
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