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「黙れ! 小童が! 今日という今日は親に対する口の聞き方というものを……」
激しい攻防に、家が揺らぐ。耐震設備が整っているお陰でそこまでの被害はないものの、近隣の住宅には迷惑この上ないだろう。昔は抗議も殺到していたが、諦めたのか、もう俺と親父の喧嘩に苦情を申し出るご近所はいない。
「二人とも~。そろそろご飯食べてくれないかな~? ご飯冷めちゃうぞ~」
「親父ぃ! 自分のことを棚に上げて何言ってんだこらぁ!」
「お前には親を敬うって気持ちが足りてねぇんだよ!」
「お~い、早く片付けたいからご飯食べようよ~」
「そろそろいきなり暴力を振る癖やめたらどうなんだ? それが父親のすることか?」
「お前みたいに口で言って解らん奴には力で解らせるしかないだろうが! 最近の教育っつーのは甘ぇんだよ!」
「……いい加減に……しろっつってんだろが! このダメ男どもがぁ! 飯に埃が入るっつってんだよ!! あぁ!?」
ぴたりと動きを止める俺と親父。二人は静かに食卓へ着くと一切口を開かずご飯を食べることに集中した。
「さ、ご飯の続きにしましょうか。あなたもご飯食べるわよね?」
「はい。ありがとうございます」
こんな家庭で何事もなかったように、もぐもぐとご飯を食べている少女を見て、やっぱり普通じゃないんだよなと、一人思いを馳せた。
◇
食後、何とか両親の詮索を押し切り部屋へと避難した。
とてもじゃないがあの二人に根掘り葉掘り御伺いを立てられてはこちらの身が保たない。こっちだって一体何がどうなってるのか解らないって言うのに。
部屋に戻ってきた後も、その前と同じように外を眺める少女の後ろ姿をベッドに腰掛け眺める。華奢な背中でどこからどうみても普通の女の子にしか見えない。
昼間の一件を体感していなければ、とてもじゃないが悪魔と戦うために生まれた少女などという肩書きがあることなど微塵も感じない。
ずっと後ろ姿を眺めているのにもそこはかとなく気恥かしさを覚え、所在無げに部屋を見渡す。本棚にはボロボロの分厚い本がぎっしりと詰められている。どれもこれも神だの仏だのと書かれている書物ばかりだ。
別に俺の趣味ではない。うちの家系が神道に精通していて、小さい頃からこの手の書物を絵本のように読み聞かされていたものだ。
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