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パラパラとページを送り、神話に登場する女神の名前一覧に狙いをつける。
「ええと……フレイヤ、とか?」
「私に最高神の名をつけるなんて気は確か……?」
御気に召さなかったらしい。
「じゃあ、アテナ……とか? ほら、英雄の守護者とも言われてるし」
「それも神の一族。それにここは日本だからもっとアジアっぽい名前の方が……」
完璧な駄目出しをされた。
もう駄目だ。俺にはもはや為す術はない。
「そんなに言うならいっそのこともう自分で好きな名前を名乗ればいいだろう?」
至極真っ当な質問に彼女は口を一文字に結わえた。無口な印象を受けていたが、そこから口を開きさらさらと言葉という音が飛び出してきた。
「名前と言うのは個人を判別にするにあたり必要不可欠な要素であり、コミュニケーションを円滑に行うために最低限必要なファクターである。他者から与えられるものこそが名前としての本質的な構造であり、対象をより区別化できるものと思います。確かに他者が真の名を口にすることはタブーであったという社会的な背景が過去にあったことは揺るぎない事実ではあるが、近代において名前というも……」
「解った! 解ったから! 考えておくよ」
「ありがとうございます」
意地でも俺に名前をつけさせたいらしい。最後に「だったら生みの親のヴィクターに頼めばいいのに」という俺の独り言は、耳に入ってはいても聞こえないもののようだ。また何事もなかったかのように外を見詰め出した。
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