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あの時、俺はこんな世界など意味のないものだと知った。
この世界に神など居ないことを知った。
自分の無力さを知った。
死んでしまおうか、そう考えたこともあった。
きっとこの世界から俺一人消えても何も変わりはしないだろう。でも、消えてしまうことで世界を変えてしまう者もいるんだ。少なくとも俺の世界は色褪せ、くすみ、歪んだ。
毎日のように喧嘩に明け暮れた。周りに迷惑も掛けた。でも、人は一人では生きていけないことも学んだ。それから俺は愛想を振ることを覚えた。でも、誰の領域にも踏み込まない。誰にも踏み込ませない。そうやって暮らしてきた。
この世界には自分しかいない、自分が在るだけだ。そう思って生活していたのに、俺の目は日に日に目に見えないモノを映し出すようになった。
それが今日ほど鮮明に、確かな形として現れたのは初めてだった――
「ヴィクター! 貴様いい加減に目を覚ましたらどうだ!」
紅尖晶石のような赤黒い輝きを放つ翼を広げた女が、遥か頭上から刺さんばかりに声を通した。それは威厳に満ち、ともすればひれ伏しそうになるほどの圧力を有していた。
「目を覚ますのはお前の方だ! べリアル! これ以上秩序を乱すんじゃない!」
それに対し、堂々とした抗弁を切る少女が翼の女を睨めつけた。幼さの残る丸みを帯びた顔に大きな瞳を見開き、まばゆい光を帯びた槍を携えている。
少女の身体がふわりと重力に逆らい、地を離れる。
特撮か何かかと思った。
しかし、それにしては異常すぎる。これほどまでの人通りの中で、まるで違う世界かと思われる程にその二人は異質な者として存在していた。なのに誰一人、その二人などいないかのように道を黙々と歩いている。都心部大交差点の真っ只中で異様な光景が繰り広げられていた。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
気合い一閃、少女が翼の女に槍を繰り出す。その衝撃に空気が震えた。大気を伝い、俺の身体と心をも震えさせる。
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