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翼の女は身を捻り、槍を躱すと少女の顔面を鷲掴みにして地上へと急降下した。叩きつけられた地面は爆ぜ、迫り上がり、瓦壊し、その威力を物語っていた。……いや、何も起きていない。道行く人々はそれでもなお歩き続け、数メートルにも及ぶほどに迫り上がったコンクリートをすり抜けるように通過していった。
瓦礫と化したコンクリートの隙間から覗き見る。土に塗れ、顔面を抑えつけられた少女が光の槍を横に薙ぎ払い、翼の女を押し退けていた。
「まだまだぁ!」
「ちっ! これでは埒があかん」
再び翼の女は空高く舞い上がり、先ほどの勇ましい声から打って変ったように美しい声音で少女へと語りかけた。
「貴様は神という存在を理解できてはいない。神は……神々は自分たちにまで優劣を決め、最高神どもはやりたい放題。天使や人間を道具のようにしか思っていない。ルシファーが傲慢だと? そう言いせしめる神こそが傲慢なのだ」
起きあがった少女は衣服に付いた土汚れも気にせずに言葉を返す。
「それはまだお前が神の真意を汲み取りきれていないだけだ。我々はもう別の道を行くべきなのだ。これからは見守る立場でなくてはならない。お前は解っていない!」
「……平行線だな。まるで……この世界と我々の世界のように……だが、世界はまだ交わることができる」
翼の女が掌の中で紅蓮の炎を立ち昇らせる。それは一振りの剣と化した。紅蓮の剣を手に取り立ち振る舞うのかと思われたが、女は大きく腕を振りかぶり、宙に浮いた剣を投げ放った。周囲の空気を焦げ溶かし、尾のように火の粉を煌めかせた剣が少女を襲う。
まずい。兎にも角にもそう思った。他の人間には影響が無いようだが、俺は明らかにこの二人の闘いに巻き込まれている。素人目にも今翼の女が放った剣が地面に突き立てば周囲数十メートルは跡かたもなく吹き飛ばされるだろうことが予測された。
後退った俺が瓦礫を踏み砕くのと、少女がこちらを振り向くのは同時だった。俺の視線と少女の眼が絡み合う。
「っ……人間!? しまっ……!」
少女は飛び立とうとして力を込めていたはずの脚を剣に向かっての照準に変えた。光の槍を思い切り剣に叩きつけるが、威力を相殺することができず、叩きつけたことで軌道の変化した剣は少女の腹部を深々と貫いていた。
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