第一章 ~夢現5センチメートルの狭間~

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「かっ……は……!」  声にならない声を血と一緒に喉から絞り出し、少女は崩れ落ちた。 「あ……ああぁ……」  余波の熱風を浴び、そのまま尻もちを着いた俺はただこの状況を見ていることしかできなかった。俺に気が付いた翼の女が声を飛ばす。 「ほう……私たちに干渉できるか……人間! 貴様死にたくなければすぐにここから離れるんだな! 今そいつに止めを刺してやるところだ!」  そう言うと女は纏うように炎を帯びていく。辺りの温度が急激に上がり、息苦しさと共に眩暈を覚える。慌てて起き上がるが、こんな状況で巻き添えを喰わないところまで避難するのは正直無理そうだった。  その時、腹部に剣を立てたまま仰向けになっていた少女が鋭い眼光と声を放った。 「……我を……軍神ヴィクターを見縊るなよ!」  ぞっとするような眼差しで少女が仰向けのまま両手を掲げると、光の槍が主を護るように浮き上がり翼の女に狙いを定めた。片手を勢いよく振り降ろすと槍が一直線に女に向かう。 「はっ! 私の真似ごとか? 残念だが、私と貴様では置かれている状況が違う。空に放った槍を躱すなど、稚児の手を捻るより容易い」  女が槍を躱す為に身を捩る。それに合わせ少女はもう片方の手を振り下ろした。瞬間、目も眩むばかりの光が空を埋め尽くす。 「ぐっ……! もう……一槍だと……?」  二槍に分かれた槍の一つが皮肉にも少女と同じように女の腹部を捉えていた。天高くから血を滴らせ、女が落ちる。 「私は諦めんぞ……ヴィクター……」  そう言い残し、地に着く前に女と異様な世界は消失した。  少女の身体に突き刺さっていた剣も姿を消し、残されたのは呆然と立ち尽くす俺と息も絶え絶えに横たわる少女、そしてありふれた街中の雑踏だけだった。 「お……おい! 大丈夫か! きゅ……救急車……!」  少女に駆け寄りながら慌てて携帯を探す俺に、少女は無駄だという素振りで顔を振った。 「我が……見えるか……? お主……異界の縁の者か? それとも神憑きか……?」 「な……何言ってんだよ! わかんねぇよ! そんなことよりお前、怪我……!」 「身体を……貸してくれないか?」  身を起こす為に身体を貸してくれ、そう言っているのだと解釈した俺は少女の肩に手を回し担ぎ上げる。
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