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二人は目を閉じ、闇についた。館を取り巻く空虚な安寧も今はただ一時の安らぎに過ぎなかった。
◇
掌から砂が零れ落ちていく。それを受け止めようともがけばもがくほど、砂は更に指の間をすり抜けていく。
やめてくれ……俺から奪わないでくれ……神は……いないのか……
止まることを知らない砂の粒を為す術なく見詰め続ける。それは残酷にも儚く、そして美しかった――
――朦朧とした意識のまま身体を起こすと、そこは自分の部屋だった。ろくに使っていないコンポや、整理されていない本棚、何故か気に入って買った小型の冷蔵庫など、普段のまま何も変わらない内装が目覚めた俺を出迎えた。
「う……痛た……」
ずきずきと痛む頭を押さえ、どうして自分の部屋で寝ているのかを思い出そうとした。
(我が軽く記憶に潜って、家まで戻ったのだ)
簡単に答えが出た。
ここで、ああそうと言葉に答えて、布団に潜り込むこともできた。それで夢の続きをみて、いつもと変わらない朝が来るはずだった。でも、そんなことをしている場合じゃない。腕を見やると熱風から顔を庇った時にできた焦げ跡がしっかりと残っていた。
「なんだ……? どうなったんだ俺の身体は……?」
意識してみても特におかしな点はなかった。ただ、頭の中に先ほど戦っていた少女のものと思われる声が響いてくる以外には。
(すまんな。少しの間身体を貸してもらうぞ。あのままの状態では我の命に関わったのでな……)
何がなんだかわからない。突然異常な光景を目の当たりにし、一時的な錯乱状態に陥っているのか、それともこの今の状況こそまだ夢の中なのか、もう自分には判断できなかった。
(そう慌てるな。巻き込んでしまった以上、最早知らぬ存ぜぬではまかり通るまい。まずは自己紹介といこうじゃないか。我は、ヴィクター……軍神ヴィクターだ)
頭の中の少女はヴィクターと名乗った。ヴィクターと言えば神の啓示を伝え、勝利をもたらすとされる天使の名だ。神道に縁深い家系をもつ俺は、その手の蔵書をよく目にしていた。日本の神だけでなく、あらゆる神や天使、悪魔などについて多少なりとは知っていた。しかしだからといって、はいそうですかとは行き難い。
そもそもヴィクターという天使だって戦の神であるなんて話は聞いたことがなかった。
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