第一章 ~夢現5センチメートルの狭間~

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「どうなってるんだ……? おい! どうなってるんだよ!」 (落ち着けと言っている。ゆっくり語ってやるからまずは名を名乗れ。意識に入っているからと言って、その人間全ての情報を把握しているわけではない)  頬を抓ってみると痛みがある。身体を思い通りに動かすこともできる。夢や悪霊なんてことではないらしい。とにかく現状を整理したい。頭に響く声に、俺は向き合うことに決めた。 「俺は……天乃千早(あめのちはや)だ」 (千早か……心得た。それでは、説明してやろう。我ら――神々について)  神。  その単語に奥歯がぎしりと嫌な音を立てる。神……? 神なんて……そんなものがいるわけないじゃないか……いるわけがないんだ。俺の思考に気付いているのかいないのか、さらりとヴィクターは言葉を続ける。 (っと、その前にお主に紹介しておく必要があったな。入れ)  ヴィクターのその言葉に部屋のドアが控えめに開かれる。姿を現したのはヴィクターよりもやや年上、見た目で言うなら十五・十六といった歳の頃の少女だった。腰まで伸びる長い髪に落ち着いた雰囲気を持つ無表情さにも関わらず、大人しさとは掛け離れた空気を身に纏っていた。 (そやつは我の力の具現体……我とお主の守護者だ) 「……よろしく」  簡単な挨拶をして彼女は窓際に寄り、外に目を配った。通行人や鳥などに注意深く目を這わせている。その姿はまさに映画などでみる要人の護衛そのもののようであった。呆気にとられている俺に、ヴィクターが早速という風に説明を開始する。 (長い話は好きじゃない。簡単に説明させてもらうぞ。まずは我のことからだ。先のベリアルとの戦闘で重傷を負った我は、お主の身体に憑いた。俗にいう“神憑き”と言われる状態だ。普通、我ほどの神を身に宿せば宿主が持たず、すぐに死に至る場合が多いがお主は大丈夫なようだな……)  とんでもない発言がいきなりヴィクターから告げられる。勝利をもたらすどころか死をもたらすなんて、天使じゃなくて死神なのかと疑いたくなる。 「お、おい!? 本当に大丈夫なのかよ、それ!」 (大丈夫だ。こうして会話できるようならお主の神憑きとしての容量は十分だ。問題ない)
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