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一時は死ぬことも考えた俺が、こうして死に恐怖するなんてことは何だか不思議に感じられた。生に対して貪欲というわけではない。死という概念から逃れたい。そちらの方が適切に感じるのもまた自分らしいと思った。
(続けるぞ。次はベリアルたちについてだ。我と戦っていたのがベリアル。どうやらお主はこちらの世界になかなか精通しているようだ。この名前は聞いたことがあるんじゃないか?)
勿論聞いたことがある。その名前は悪魔の代名詞と言っても過言ではない。最初に神に背いた天使たちの一人であり、『傲慢』を司るとされている存在。
(心当たりがあるようだな。しかし、遥かな時の流れの中で神や悪魔について、かなり出鱈目な知識もこの世界にはありふれているようだ。自分の知識を鵜呑みにはするなよ。ベリアルたちは悪魔――つまり堕天使だ。最高神に楯突いた、堕とされし者たち。通称“サタン”と呼ばれる。サタンの目的は一つ。この人間界と我ら神々の世界との融合。人間を救うなどと大義名分を掲げて、この世界を混沌に陥れようとしているのさ)
ヴィクターが嘘を言っているようには感じない。でも、今は何を信じていいのか解っていないというのが本音だ。とりあえず引き出せるだけ情報を集めて、この悪夢を終わらせたい。現実に戻っても希望など無いが、どちらにも希望が無いなら平穏な方がましに決まっている。
(では、話はくれくらいにさせてもらおう……我は治癒の為、眠りに就く。後のことは具現体に聞いてくれ)
話を聞き出そうと躍起になった途端のヴィクターによる戦線離脱宣言。まだまだ聞かなければならないことが山積みだというのにこれでは困る。
「お、おい!? じゃあせめて、あの女の子のことだけでも教えてくれよ!」
未だ外の景色から目線を外さない『具現体』と呼ばれた少女を背中越しに眺め、慌ててヴィクターに情報の要求をした。
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