37人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前……何者だ」
『はて。可笑しな質問ですね、私が何者か』
狐のお面を被った者(以後狐と表記)は藤原妹紅の質問にただ微笑。 苛立たせるような笑い方で。
『フフ、私は貴女を知っている。が、貴女は私を知らない。実に可笑しい、フフッ』
「はっ、じゃあ何か。私とお前は既に見知った仲だと? 笑わせる……何ならもう一人いるのか?分身の術でも使えるのかよお前は」
『フッ、笑えますね。非情に、良いジョークだ』
藤原妹紅は苛立っている。
誰もが見て分かる程、彼女は苛立ちを露にしていた。
それと同時に彼女の頭の中は至って冷静だった。故に思う、何故こんな茶番をするのか、何故こんな回りくどい事をするのか、何か目的が―――
彼女は、藤原妹紅は気付いた、気付いてしまった。
既に自分が狐の思惑に嵌まっていることに。
「チッ…、お前、どうやって」
――居ない。
先程まで隣に居た筈の、一人では決して動けない筈の妖精たちが、居ない。煙のように、消えてしまった。
気配はなかった、誰かが近付くなどそんなことは―――
『さあ、もう一人の私が連れ去ったんじゃないでしょうか。分身の術とやらで?』
「へっ、笑えねーなそのジョーク…!」
藤原妹紅は飛翔し、狐目掛け自身の能力の産物である炎をぶつけた。
・・・・
いや、ぶつけた筈だった。
そこには既に誰も存在せず、残るのは辺りに立ち上る焼き焦げた臭いと虫たちの奏でる鳴き声に包まれた藤原妹紅ただ一人だけだった。
最初のコメントを投稿しよう!