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「お疲れー。午後からは誰んトコだったかな?」
突然背後から低い声がする。
「あら、先生。もうお食事終わったんですか?
午後からは牧野さん、山本さん、宇崎さん、中田さんの予定です」
休憩室の扉を少し開けて、少し浅黒い顔を覗かせてるゲン先生こと源先生に、主任がてきぱきと答える。
「あー。山本さんはこの前ちょっと炎症反応高かったから、今日も採血しておこうかな。準備よろしくー」
それだけ言い残して、この診療所の所長でもある源先生は姿を消した。
「さすがゲン先生ね。カルテ見なくても患者さんのデータが入ってる。
優香ちゃんは? 二週間前に行った山本さん覚えてる?」
満足げな主任に油断してたら、急に質問きたーー!
えっと、山本さんでしょ?
えーっと、えーっと、え……っと…………。
「すみません」
あー情けないですっ。
「山本さんて、ほら、梓山のちょっと入ったトコにあるお家で、おじいちゃんとおばあちゃん二人暮らしのとこですよー。
ほら、優香ちゃんも下肢の拘縮強くてオムツ換えるの大変そうって言ってたじゃない」
助けてくれたのは板谷さん。
「胃癌の既往もあって、胃切してるから食事にも気ぃ使ってらっしゃるし、おばあちゃんよくされてるわ」
ああっ。そっか!
山本文作さんだ。奥様が小柄で可愛らしい方だった。
ウチの診療所では週に2回、訪問診療日を設けてる。
高齢化の進むこの村では通院が難しい患者さんも少なくない。
そんな患者さんのお宅を定期的に訪問して診察もしてるし、何かあれば定期外の往診にも伺っている。
山本文作さんもそんな患者さんの一人で生活全般に介護が必要になってきてるおじいちゃんを腰の曲がったおばあちゃんがよく看てらっしゃる素敵なご夫婦だ。
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