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山本さんたちのように診療所まで来るのも大変! てお年寄りはけっこう多くて、訪問させていただいてる患者さんの件数もけっこう多い。
まして、村に一つしかない診療所。
訪問先は診療所のある村の中心部に留まらない。
むしろ、村境に近いような場所からの依頼も多くて、移動だけでもけっこうな時間を取られることの多いのが実情だったりする。
こんなの、絶対前の病院だったら行かないだろうなぁ……。
ふと、前の勤め先である病院のことが蘇ってくる。
看護師になって10年。私はこの長野県でも名の知れた大きな病院に勤めてきた。
治療優先。それは病院としては当然ではあるんだけど、『人が人をケアする』てことを忘れてきてるような違和感がずっとあった。
もちろん病院にも救急救命に力を入れて頑張って病院もあれば、生活に密着した慢性疾患に力をいれてる病院だってあるわけで。それぞれに役割があって、それぞれが大切なんだって。
それは、わかってたし、そんな中で日々出来る限り『患者様のために』て思って頑張ってきてたんだけど。
「大崎さんはチームでの仕事ができてない」
「受持ちの患者さんにのめりこみ過ぎ」
いつの頃からか、頻繁にそんな声が耳に入るようになった。
一生懸命考えて。一生懸命ケアをして。
患者さんからは笑顔を向けてもらえても、一緒に働く仲間は離れていく一方だった。
「ここは治療をするための場所なの」
「退院後の生活のことまで細かく気にかけてたら、ベッドが回らないわよ」
「そういうのは相談員や行政に任せておけばいいんだって」
幾度となく説明されてきた言葉にはどこか違和感があって。
「あなただけがみんなと違うケアをしてたら困るの」
「一人だけいい子ぶらないで」
「アンタのせいで仕事増えるんだけど?」
徐々に増え始めた不満は
「もう大崎さんとは一緒に仕事したくないですっ!」
そんな新人の涙ながらの訴えに同調した看護師長の些細な一言は、私の心を壊した。
『……私が、辞めます』
そう告げた時、今まで一緒に働いてきたスタッフが「残念ね」と言いながら笑ってるような気がした。
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