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「なかなかいい見立てしてんじゃん」
それが源先生が初めて私にかけてくれた台詞。
あのおばあちゃんをタクシーで診療所に連れていった時、血圧計一つ持ってない私は、脈拍と身体状況の観察、おばあちゃんの訴えから何が起きてるか推察することしか出来なくて、診療所に着いたなり
「すみません! この方胸が苦しいって訴えがあります。脈拍も不整だし、浮腫もあるようで……
心疾患で通院されてたりしませんか?」
そう訴えた。
その時の先生のコメントが、さっきので。
時に医師は看護師が先に余計な一言を口にした場合、過剰じゃないかと思われるような怒りを露わにされる。
私自身、病院にいる時に度々『余計な一言』のために医師の怒りを買うことが多くて、その時も言ってしまってから「ヤバイ」と思った。のに。
現れた源先生は拍子抜けするほどあっさりとしたそんな台詞をくれた。
さらに現れた板谷さんが
「あら、今お仕事してない看護師なの?
あらあらあらあら。ちょっと主任~?」
と繋ぎ、次に現れた主任からは
「ウチで一緒に働かないっ?!」
とのストレートなお誘いを頂いた。
まさか、こんな事態、夢にも思ってなかった。
こんなにも自然に。こんなにも真っすぐに。
『看護師としての私』を受け入れ、必要としてもらえることなんて、有り得ないと思ってた。
ずっとずっと『看護師としての私』しか持てなかった私が。
どんどん『看護師としての私』を否定され、拒絶されて。
それは、私という人格自体を否定されたも同然で。
主任の真っすぐな瞳の前で、ストレートな誘いを頂いて、
頭で考える前に、涙が溢れてきてた。
突然泣き出した私に、主任も板谷さんも驚いて――。
あれ? それから…………?
「ちょっと! いつまで患者を待たせるんだいっ!
早く中へ通しなっ」
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