1章

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しばらくして龍一が目をあけるとそには驚いたことに大きな寸胴が壁に沿ってずらりと並んだ空間があった、どうやらここは厨房らしい、だが人の気配はなく寸胴しかない、恐る恐る寸胴に触れると・・ 『熱っ!!』 まだかなり熱い、龍一は急いで耳たぶを触った、そして寸胴の下を見てみるが火は消えている、ということは先程まで人がいた、ということだろうか。 謎は残るが龍一の推理を邪魔するものがひとつあった、それは鼻を刺激する香辛料の匂いだ、匂いに龍一は心当たりがあった 『ターメリックの匂い、これはまさしく俺の大好物のカレー』 匂いは厨房にある寸胴全てからしているようだ、龍一は目を輝かせて一番手前にある寸胴の蓋を開けてみた、蓋を開けるとより一層カレーの匂いが強くなる 龍一は涎を垂らしそうになりながらも必死に耐えて回りをぐるりと一回見渡した、回りに誰もいない事を確認すると小指をスプーン代わりにして少し舐めてみた 『このチキンベースのソースは食堂のオバチャンの作るカレーに勝る味だ・・この味を出せるのはただ者ではない・・・な』 龍は一旦寸胴の蓋を閉めて回りをもう一度見渡した、この味がここにある全ての寸胴に入っているに違いないカレー好きの自分としては味しない訳にはいかないだろう すかさず次の寸胴の鍋の蓋を開けてみた だが、この寸胴を開けたことを龍一は後悔することとなる、なぜならその寸胴に入っていたのは龍一がこの世で一番大嫌なキノコ入りのカレーだったのだ ターメリックの匂いに混じってうっすらとキノコの匂いが漂ってきた、普通の人なら気づかないかもしれない、しかし龍一のキノコ嫌いは半端な物ではない、キノコが10メートル先にひと欠片落ちていても分かる位なのだ 龍一は鼻を摘まんですぐさま蓋を閉めようとした、だが中々閉まらない 『なんだよ!』 龍一はイラつき蓋を再び開けてみた、寸胴に異常はない、しかしカレーソースのまん中当たりがぷっくり膨らんでいるではないか。 『これは・・?』 先程まではなかったはずだ、あれはすぐにわかっただろう、不信に思い近くにあった銀色のカレー用オタマを駆使してその謎の膨らみを少しつついてみる それは柔らかく触れるとふかふかしているように思えた、思いきってすくってみようそう考えた龍一はカレーソースに深くオタマを突っ込み、そして引き上げた 『・・・ん、なんだ?重いな』
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