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――――辿り着いたそこは、僕の記憶にあるものとは、全く異なっていた。
「……あ……」
マンションを取り囲むように集まった野次馬たち。
そばに停められた消防車からは太いホースがのばされ、消防隊員たちは懸命にそこから、目の前の建物へと放水を繰り返す。
消火を手伝おうとしていたのだろうか。
少し離れた場所では、近隣の住人たちが水の入ったバケツを脇におき、呆然と立ち尽くしていた。
おそらくあまりの建物の惨状に、どうすればいいかわからなくなったのだ。
そして、その建物…
…僕がついさっきまで居たマンションは炎につつまれ、煙を吐き出し、地獄のような有り様だった。
火元はおそらく最上階の5階。
その辺りは特に火の勢いが強く、部屋の窓から炎が吹き出しているように見えるくらいだ。
消防隊員たちは消火する一方で、中に残っている人はいないかと、避難の確認をしている。
出入り口からときどき人が逃げ出してくるのが見えたものの、もともと学生や会社員の1人暮らしが多く、平日の昼間ということもあり、あまり中に人は残っていないようだった。
「……う……ああ……」
僕は眼前の光景に、身体を震わせ、しゃがみこむ。
手で顔をおおい、恐怖のあまり吐き気がこみあげてくるのを、何とか耐えた。
「ぐ……は……はあ……っ……」
それでも止まらず流れ出す脂汗。
頭の中では幼い日の火事がフラッシュバックして、僕を責めあげる。
歯がガチガチ情けない音をたてて、自然と涙が浮かんできた。
「……うう…ああ……」
忘れることが出来ない恐怖。
身体に染み付いた恐れ。
……こわい。
何年経ったって……
今でも火が恐ろしくて仕方ない。
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