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これは恋ではない。
確かに彼女に恋心を抱いている。だが、この緊張はそんな温かいものではなかった。
「なぁ」
声をかけてみる。
「?」
彼女は顔をあげた。怪訝そうに目を大きくさせる。艶のある長い髪と同じ黒の瞳。眼鏡越しでもそれは美しかった。何となく、俺は、自分の髪と瞳を気にした。彼女にはどう見えているのだろうか。
「お前の手、てさ……白い割にはあったかいよな」
「そうかな?」
彼女は小首を傾げた。言ってから恥ずかしくなった。今更何を言っているのか。彼女の肌が白いことも華奢な体躯であることも知っている。その割に、体温が高いのも知っている。
そして、彼女が優しいことも。
だから好きになったのだ。勿論、好きなところはもっと沢山あるが。
「あなたの手は冷たいよね」
不意に彼女の声音が低くなった。どきり、と心臓が跳ねる。
「そうか?普通じゃね?」
平静を装いながら、会話を続けた。
「ううん。冷たいよ」
彼女は絡められた指に力を入れた。生真面目な彼女の爪は、当然、切られてある。なので、痛くはなかった。
「でも」
一旦、間をおいて彼女は言った。
「好きだよ」
「え?」
突然の告白に俺は目を見張った。真っ直ぐに見つめてくる彼女の瞳は澄んでいた。黒い部分に、自分の戸惑った顔が映り込む。
「冷たいところがあってのあなたでしょう?はじめは戸惑ったけれど……今はあなたのそういったところも好きだよ」
「……!」
彼女の言葉を聞いて、驚く。
「だから……安心して」
最後は呟くようにして、肩に寄りかかってくる。黒髪が首に触れてくすぐったい。
しかし、心地の好い温かさが伝わってきた。
「……うん」
素直に頷いて、彼女の温もりに、俺は甘えた。
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