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ーーぶつかり合う音が、海に響いた。
ざわざわと水面が揺らぐ。
もう駄目だと思った。
思って、ただ迫り来るバケモノのおぞましい顔を凝視していた。
しかしそのバケモノは、隣から別の生き物に突進され、態勢を崩し倒れ込んでいた。
新たな存在として登場したその生き物はこちらを見つめ、そろそろとこちらに近づいて来る。
そして鼻の先端を彼の膝につけると、”キー”と鳴いた。
しかし。
可愛らしい馴染みある姿はやがて、姿を歪ませ水へと変貌させた。
そしてそのまま弾けるように水滴になって、海にパラパラと降り注いでしまった。
「ーーイルカが…」
(どうして、水に…?)
そんな疑問も追いつかないほど、彼は更に不思議な光景を見る。
バケモノが倒れた際に宙へ舞い上がった細かな水飛沫の一つひとつが、長い剣に変わり、その不気味な身体を貫いたのだ。
何百本、何千本の剣は、バケモノに突き刺さりながらその身体を地面に固定させていく。
バケモノはすっかり、身動きが取れなくなってしまっていた。
バケモノは呻き声を上げ、地団駄を踏むようにヒレを地面に叩きつける。
そこで生じる水飛沫もまた、剣となりその身体を貫き、なけなしの自由を奪った。
「これは…、いったい…」
助かりながらも訳が分からず、彼は目の前の光景にただ呆然と座り尽くす。
そこにーー。
水面を蹴り、波立たせながら。
一人の青年が、こちらへと駆け寄って来た。
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