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少年は気がつけばここにいて、そして歩いていた。
星がポツポツ見える夜空の冷たい風を受けながら、右も左も、前も後ろもないこの世界を。
海のように果てなく広く、川のように浅い水の世界を。
疲れて震える身体に必死で鞭打ちながら、誰かいないかとひたすらに。
街どころか、生き物の気配すらないこの世界で。
ーーやがて華奢な足首にまとわりつく水の抵抗が重い枷のように感じ始めたころ、少年は空気が抜けたようにその場に倒れてしまった。
身体全体に水が染み込んでいき、そこを風が撫でることによって、少年の体力はまた削られる。
少年は震える身体を捩り、なんとか仰向けになり空を見上げた。
”寒い…”
もう、声にもならなかった。
そして立ち上がる気力も残っていなかった。
そのうち夜空の星の弱々しい光がぼやけていき、少年はとてつもない眠気に襲われた。
瞼が自分の意思と関係なく閉じていく、その最後のさいごに、
”助けて、誰か…”
少年はもう一度だけ、願った。
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