広がる海の街

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不安が拭えたわけじゃなかった。 おそらく、これから人魚はもっと強くなっていくんだろう。 リクヤとの出会いが、この世界を動かしていくんだろう。 良い方にか、悪い方にか。 それも分からないまま。 でも、それを案じたところで何だというんだろう。 自分が、皆を守り続ける。 これからもこれは変わらない。 きっとその選択に間違いはない。 それはきっと、これから動く世界の未来に、きっといい影響を与えてくれるはず。 うん。 どんなに人魚が強くなろうと、何も関係ないじゃないか。 「シオンくん、どうしたんですか?」 「ん、考え事だよ。朝ごはん考えてた」 「…意外と、食いしん坊さんですか?」 だって俺は、正義の味方だから。 皆を守るそのために、生まれてきたから。 「今日は、星が見えるね」 ーーアサギたちの家を出た帰り道、シオンはリクヤの手を取り坂を下りていた。 いつもより明るく感じる夜空を見上げ、呟く。 「はい、綺麗ですね。とても」 「結局、敬語直らなかったね」 「あ…、…あはは…っ。それは、ごめんなさい。 …ねぇシオンくん、街の家の灯りも、綺麗ですよ」 「うん、本当だね。綺麗だね」 「……」 家々の光に目を向けて会話を繰り返している中、リクヤはシオンをそっと見上げた。 はぐれないように優しく自分の手を握ってくれ、こんな風に他愛ない会話をする幸せを、自分は以前も感じていたような気がしていた。 こんなにも懐かしい気持ちが込み上げてくるのは、シオンくんが…。 その容姿が、以前夢に出た、自分の父親であろう男の人によく似ていたから、なんだろうか。 ばれないように繋いでいる手に少し力をいれてみると、暖かさと懐かしさが一層伝わってくるような気がした。 その温もりに、リクヤはなんだかくすぐったくなった。
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